戦艦大和が沈没したのは空気のせいだった

日本の空気に流される文化について考察した山本七平氏の「空気の研究」は日本人なら読む価値あり

ここでいう戦艦大和は宇宙戦艦ヤマトではなく,1944年、第二次世界大戦の際にアメリカ軍が上陸を始めた沖縄に向けて出撃し沈没した本家本元の方の戦艦大和です。

山本七平氏の著書に「空気の研究」という本があり,タイトルの通り,日本独特の文化である「空気」について批判的に検証している本になります。その中で戦艦大和のことについても記述があります。同書によると戦艦ヤマトが沖縄に出撃したのは当時得られた状況からしても「全く勝算のない」出撃であり,しかも意思決定する首脳部は完璧にそのことを理解していたそうです。にもかかわらず無謀にも沖縄に向けて出撃したのはまさに「空気」のなせる業であると述べられています。詳細は以下に紹介しますが,まず戦艦ヤマトが出撃,沖縄沖で沈没したことにより2,740名の戦死者が出ています。人命自体が尊いというのは言うまでもないですが,大部分が働き盛りの若者でかつ熟練の技術者であろうと思われるので,終戦後の復興のことを考えるととんでもない損失です。

戦艦大和が沖縄に出撃した経緯

戦艦大和は沖縄戦が絶望的な状況な最中水上部隊最後の海戦を実施するため(≠勝つため)に沖縄へと特攻出撃しました。当時完全に制空権をつかまれている中での寡兵での出撃のため帰還できる可能性はありませんでした。結果として,沖縄に到達するはるか手前鹿児島県沖で米国に撃沈されて沈没しています。同様の作戦はサイパン陥落の時にも提唱されたそうですが,その際は到達までの困難と,到達しても機関、水圧、電力などが無傷でなければ主砲の射撃が行えないことを理由に退けられたそうです。しごくまっとうな判断です。この決定があるにもかかわらず沖縄では出撃させるのであればサイパンの時とは異なり,無傷で到達できるという客観的情報の変化、裏付けるデータがない限り出撃となることはないはずです。しかしそんなデータがあるわけもなくそれでも大和が出撃したのは「空気」によるものにすぎません。当時の軍令部次長小沢の発言がこのことを表しています。彼は戦後「全般の空気よりして、その当時も(大和出撃の判断は)今日も当然と思う。」と発言しています。もうまんま空気で決めたって言っちゃってます。いくら戦時中のこととはいえ,日本では空気で人命すら決めてしまうという異常な国家であるということは知っておくべきことでしょう。

戦艦大和は現代社会で起こってもなんら不思議はない

以上に見てきたように戦艦大和が沈没したのは戦術分析が未熟だったからでも,操舵技術が未熟だったからでもなく,意思決定者が論理的な事実よりも空気を優先したことにつきます。理由が技術の未熟さだったのであればその後技術的には日本は大きく発展しましたので同じような悲劇は起こらないであろうと言えますが,根本的原因である空気についてはそもそも議論になってさえいません。戦艦大和の時そもそもなぜこんな空気が醸成されてしまったのかというと連合艦隊参謀神重徳大佐が執拗に感情論で大和出撃を主張し,まわりが論理的に反論しても一向に引き下がろうとしませんでした。本来であればより上の人間が諫めるとかしつこいようなら解任すればよいのですが,軍令部総長及川古志郎大将は当時ただ黙っていただけだそうです。普段の生活でも声の大きいだけの人がやたら変な意見を主張してまわりは黙っていて流されてしまうみたいなことが結構あると思いますがそれが軍議場で起こってしまったパターンと言えます。結果として先に述べたように2,740名の死亡,そもそも目的地まで到達することすらできずに撃沈という悲劇を生んでしまった。その後この件から空気の危険性を学んでいない日本ではいつ同じことが起こるか分かりません。自分の身は自分で守るしかないなというのが正直な感想です。

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